コラム

第1回 育児休業改正について

令和4年度は育児休業について改正がいくつか行われます。(正式には、「育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律及び雇用保険法の一部を改正する法律」の施行によるものです。)
いくつかある改正のうち最も早いもので、令和4年の4月から施行となります。

これは事業規模にかかわらず同時期からの適用となりますので、まだ改正について制度や就業規則等の準備ができていない場合は、速やかに取り掛かっていただくのがよいかと思います。

改正の背景

厚生労働省は、今回改正に至った背景として、“出産・育児による労働者の離職を防ぎ、希望に応じて男女ともに仕事と育児を両立できる社会の実現”に対して、男性の育児休業取得率が低く、取得期間も短い現状が課題となっていることを挙げています。

社内研修資料について|男性の育休に取り組む|育てる男が、家族を変える。社会が動く。イクメンプロジェクト
https://ikumen-project.mhlw.go.jp/company/training/

令和2年度の育児休業取得の状況を比べてみると、
【取得率】女性:81.6% 男性:12.65%
【取得期間(中央値)】女性:10ヶ月以上12ヶ月未満 男性:5日以上2週間未満
となっております。(「雇用機会均等基本調査」(厚生労働省)より)

また、三菱UFJリサーチ&コンサルティング「仕事と育児等の両立に関する実態把握のための調査研究事業報告書」(平成30年度)によると、育児休業制度の利用を希望していたが、利用しなかった男性(正社員)の割合は37.5%となっております。

育児・介護休業法の改正について.pdf【厚生労働省資料】
https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/000851662.pdf

育児休業を取得しなかった理由として、女性に比べ特に男性で多かったものには、
「職場が育児休業を取得しづらい雰囲気だったから、または会社や上司、職場の育児休業取得への理解がなかったから」
(「令和2年度 仕事と育児等の両立に関する実態把握のための調査研究事業報告書」(株式会社日本能率協会総合研究所)より)
があり、こういった状況を変えていくことで、男性も女性も柔軟に育児休業を取得できるようにしていこう、という流れに移行しつつあるようです。

改正の内容

時期を3回に分けて、改正法が施行されます。
今回は直近であるR4.4.1施行の内容についてご紹介いたします。

R4.4.1施行

a. 雇用環境整備の義務付け
b. 個別の周知&休業の取得意向確認のための措置の義務付け
c. 有期雇用労働者の育休・介休取得の要件緩和
d. 育児休業の申出方法等の見直し

a. 雇用環境整備の義務付け

簡潔に言うと、会社は、従業員が育児休業を取得しやすい雇用環境を整えなくてはならない、という内容です。

具体的には、以下のいずれかの措置を講じること、とされています。

  1. 育児休業にかかる研修の実施
  2. 育児休業に関する相談体制の整備
  3. 雇用する労働者の育児休業の取得に関する事例の収集・提供
  4. 雇用する労働者に対して育児休業の制度と育児休業取得促進に関する方針の周知

ここで、それぞれ注意すべきポイントがあります。

1つめの「研修」

全労働者を対象とすることが望ましいですが、少なくとも管理職については、みなが研修を受けたことがある状態にすることが必要です。また、R4.4.1からスムーズに開始できるように実施時期・内容の検討、研修講師の選定等、事前に準備を行っておく必要があります。

2つめの「相談体制の整備」

実質的に対応が可能なものでなくてはなりません。また、しっかりその体制を周知しておくこともポイントです。形式的なものとしてしまうのではなく、労働者が利用しやすい体制として整備しておきましょう。受付時間や担当者を検討し、R4.4.1からスムーズに運用できるように準備を整えておくことが必要です。

3つめの「雇用する労働者の育児休業の取得に関する事例の収集・提供」

例えば“女性の事務の正社員ばかり”、など偏った事例を収集・提供することは好ましくありません。
特定の性別や職種、雇用形態等に偏らせず、可能な限り様々な労働者の事例を収集・提供することにより、特定の人が育児休業の申出を控えてしまうことに繋がらないように配慮することが必要です。事例の提供とは、書類の配付やインターネットへの掲載等を行い、労働者が閲覧できるようにすることを指します。

4つめの「雇用する労働者に対して育児休業の制度と育休取得促進に関する方針の周知」

育児休業に関する制度及び育児休業の取得の促進に関して、事業主の方針を記載したものを事業所内やインターネットへ掲示することを指します。

b. 個別の周知&休業の取得意向確認のための措置の義務付け

労働者本人、またはその配偶者の妊娠・出産について、労働者から申出があった際に、

  • 育児休業の制度について個別に伝え、
  • 育児休業の取得の意向を確認する

ことが必要になります。

この場合、個別周知・意向確認の方法は以下のいずれかで行わなくてはなりません。

  • 面談
  • 書面の交付
  • FAX(労働者が希望した場合のみ)
  • メール、SNS等(労働者が希望した場合のみ)

また、個別周知する内容は以下の4点です。

  • 育児休業に関する制度
  • 育児休業申出の申出先
  • 雇用保険の育児休業給付に関すること
  • 労働者が育児休業期間中について負担すべき社会保険料の取扱い

このような個別周知・意向確認を行うにあたって、スムーズに漏れなく運用が開始できるようにしておくと良いでしょう。たとえば、どの方法によって個別周知・意向確認を行う場合でも、基本となるテンプレート文面を用意しておき、それを各方法に応じてアレンジして使う形式にすると、伝えなくてはならない内容・確認しなくてはならない内容が抜けもれなく網羅され、安心です。

ちなみに、R4.10.1からは上記の周知内容に加え、出生時育児休業【別名:産後パパ育休(後日記事をアップします)】についても、周知する義務が発生します。
また、同じくR4.10.1から育児休業中の保険料免除についても法改正がありますので、このタイミングで先述のテンプレートを書き換える場合は、注意するポイントとなります。

c. 有期雇用労働者の育休・介休取得の要件緩和

これまで、有期雇用労働者が育児休業もしくは介護休業を取得する際、以下の要件が定められていました。

【育児休業】
(1) 引き続き雇用された期間が1年以上
(2) 1歳6か月までの間に契約が満了することが明らかでない

【介護休業】
(1) 引き続き雇用された期間が1年以上
(2) 介護休業開始予定日から93日経過日から6か月を経過する日までに契約が満了することが明らかでない

このうちどちらも(1)の「引き続き雇用された期間が1年以上」の要件が児休業・介護休業において撤廃されることとなりました。

ただし、労使協定を締結することで「引き続き雇用された期間が1年以上」を育児休業・介護休業の取得の要件とすることは可能です。

ですが、正社員にはこの要件がなく、有期雇用労働者にのみあるというのは、“短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律”の第8条「不合理な待遇差」に該当する可能性があるため注意が必要です。

そのため、「引き続き雇用された期間が1年以上」の要件を設けたい場合は正社員・有期雇用労働者ともに労使協定を締結することがのぞましいと思います。

また、今まで正社員のみを対象にこの労使協定を締結していた場合でも、それをそのまま有期労働者に適用させることはできず、改めて有期労働者を対象に別途労使協定を締結する必要があります。

d. 育児休業の申出方法等の見直し

従業員が育児休業を申し出る際の方法が以下の通りとなります。

  • 書面
  • FAX(労働者が希望した場合のみ)
  • メール、SNS等(労働者が希望した場合のみ)

また、育児および家族の介護における所定外労働の制限や時間外労働の制限、深夜業の制限の請求、介護休業の申出・通知についても同様に変更されます。

両立支援等助成金

今回ご紹介する内容はここまでです。a,bに関しては社内体制をどのように整備するかを決めることが必要となり、c,dについては就業規則の変更等も必要となる場合があります。
まだ準備ができていない場合はぜひお早めにご対応いただければと思います。
また、具体的にどのように対応していけばいいのかわからない、といった際にはぜひ社会保険労務士法人 clovic までご相談ください。

次回は、R4年10月以降に施行される内容や、この改正に合わせ、必要に応じて締結すべき労使協定についてご紹介します。

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