コラム

「管理監督者」について

「管理監督者」と聞くとどんな人を想像するでしょうか?
①会社の部長や課長 ②工事現場の現場監督 ③飲食チェーン店の店長……など
部下や従業員を文字通り管理監督する立場として、①②③いずれも「管理監督者」に該当するような気がします。
しかし、労働法基準法上の「管理監督者」となると意味合いが違ってきます。
では労働基準法上の「管理監督者」とはどのようなものでしょうか?

労働基準法上の管理監督者とは?

労働基準法では労働条件の最低基準を定めていますが、第41条では一部の労働者に対してはその適用を除外するとされています。そして41条2号の 「事業の種類にかかわらず監督若しくは管理の地位にある者」がいわゆる「管理監督者」と呼ばれています。

参照 

(労働時間等に関する規定の適用除外)

第41条  

この章、第6章及び第6章の2で定める労働時間、休憩及び休日に関する規定は、次の各号の一に該当する労働者については適用しない。

  1. 別表第1第6号(林業を除く。)又は第7号に掲げる事業に従事する者
  2. 事業の種類にかかわらず監督若しくは管理の地位にある者又は機密の事務を取り扱う者
  3. 監視又は断続的労働に従事する者で、使用者が行政官庁の許可を受けたもの

労働基準法の「管理監督者」と一般の労働者の違いは?

労働基準法上の管理監督者には、労働基準法の法定労働時間(労基法第32条)、休憩(労基法第34条)、 休日(労基法第35条)の規定が適用されません。このため、管理監督者が残業や休日出勤をした場合、残業代や休日出勤手当を支払う必要はないとされています。ただし、労働基準法における深夜割増賃金や年次有給休暇の規定は、管理監督者にも適用されます。

管理職はすべて「管理監督者」ですか?

労働基準法上の「管理監督者」となるには「労働条件の決定その他の労務管理について経営者と一体的な立場にある者」である必要があります。 「管理職」になれば自動的に「管理監督者」となるわけではなく、「管理監督者」に 該当するかどうかは、その労働者の立場、職務内容、権限等を踏まえ、その実態に即して判断されます。

具体的には、以下4つの判断基準に基づき総合的に判断する必要があるとされています。

労働時間、休憩、休日等に関する規制の枠を超えて活動せざるを得ない「重要な職務内容」を有していること

労働条件や労務管理について、経営者と一体的な立場にあり、労働時間等の規制の枠を超えて活動せざるを得ない「重要な職務内容」を有していなければ、管理監督者とは言えません。

労働時間、休憩、休日等に関する規制の枠を超えて活動せざるを得ない「重要な責任と権限」を有していること

労働条件や労務管理について、管理監督者は経営者から「重要な責任と権限」を委ねられている必要があります。

役職や肩書があっても、自らの裁量や権限で決められる事柄がなかったり、上司の命令をただ部下に伝達するだけだったりする者は、管理監督者とはなりません。

現実の勤務態様も、労働時間等の規制になじまないようなものであること

管理監督者は、経営上の判断が必要な場合にはいつ何時でも対応が要請されます。従って労務管理においても一般労働者とは異なる立場にいなければなりません。労働時間について厳格な管理をされているような場合は、管理監督者とは言えません。

賃金等について、その地位にふさわしい待遇がなされていること

その給料や賞与が一般労働者と比較して、職務の重要性にふさわしい待遇がなされていなければ、管理監督者とは言えません。

管理監督者と認められなかったものにはどのような例がありますか?

労働基準法上の管理監督者に当てはまらないにもかかわらず、あたかも管理監督者のような扱いを受けて残業手当や休日出勤手当が支払われない、いわゆる「名ばかり管理職」はいまだ根強く社会問題の一つとなっています。

従業員側の主張により裁判となり、裁判所が管理監督者該当性を否定した例をいくつかご紹介します。

全国展開しているファーストフード店の店長

アルバイトの採用や昇給等、労務管理の一端を担っているものの、労務管理に関して経営者と一体的な立場にあったとは言い難く、一定範囲の支出などについて決裁権限はあるが、その権限は店舗内の事項に限られていた。勤務体制上の必要性から長時間労働を余儀なくされ、平均年収は人事考課の結果によっては、下の職位の平均値を下回る場合もあった。

(日本マクドナルド事件/東京地方裁判所平成20年1月28日)

出版会社の販売主任

過去に営業所長を経験し、支店長会議に出席することもあったが、支店営業方針の決定権限はなかった。支店販売課長に対する指揮命令権限をもっていたとは認められない。またタイムカードにより厳格な勤怠管理を受けていた。

(ほるぷ事件/東京地裁判決 平成9年8月1日)

土木設計会社の次長、課長、課長補佐、係長

管理職会議で意見具申の機会はあるものの、経営方針に関する意思決定には関与していなかった。 また、一般従業員と同様に勤務時間を管理され、自由裁量に委ねられているわけではなかった。

(東建ジオテック事件/東京地裁判決 平成14年3月28日)

銀行の支店長代理

通常の就業時間に拘束されて出退勤の自由がなく、勤務時間の自由裁量がなかった。また部下の 人事や銀行の機密事項に関与することもなく、経営者と一体的となって経営を左右する仕事には携わっていなかった。

 (静岡銀行割増賃金等請求事件/静岡地裁判決 昭和53年3月28日)

名ばかり管理職、未払い賃金等のトラブルを未然に防ぐには、会社と従業員の双方が「管理監督者」について正しく理解することが重要です。

管理職=管理監督者ではないことを、会社側、従業員側双方で確認しましょう。

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