第3回 パワーハラスメントについて ~判例~
パワハラ解説コラム第3回目です!
前回は、パワハラが組織でどのようなマイナスな効果をもたらすかについてお話しました。
今回は、会社が果たすべき安全配慮義務・職場環境配慮義務について解説いたします。
前回のコラムの中で、パワハラは加害者と被害者だけの問題ではなく組織全体の問題、と述べましたがこれは社員の士気や生産性の低下等の問題だけではありません。
会社には様々な責任を負う義務があり、パワハラ防止措置義務だけではなく安全配慮義務・職場環境配慮義務といった、雇用する労働者への使用者責任もあります。
そのため仮に雇用する労働者間でパワハラ問題がおこり、加害者に不法行為責任が認められた場合、加害者だけでなく加害者を雇用している会社の責任が問われる可能性も十分にあり得るのです。
そこで会社の安全配慮義務が問われた例をご紹介します。
ゆうちょ銀行事件
概要
Aは書類の確認漏れなどの形式的なミスが多く,上司(主査)のB・Cからたびたび注意されていました。
AはB・Cよりも上位の上司(係長)のDに異動を訴えますが実現せず,同僚に職場のことを「地獄」等と書いたメールを送ったり,母親のXや妹のEにB・Cがひどい上司であると話したりしていました。ただ,AはY銀行のハラスメント相談窓口にB,Cからパワハラの被害を受けていることを訴えることはなく,その後同業務を担当していた者の異動をきっかけにAが電話を取る回数が増え,それに伴い書類上のミスも増え、B・Cから日常的に強い口調で叱責されるようになりました。
Aは妹Eや同僚Fにしばしば死にたいと訴えるようになり,Fはその旨をB・C・Dに知らせましたが,Bらは真剣に受け止めず,聞き流していました(ただ,DはAが痩せるなど疲れているという印象を受けており,体調不良が気に掛かっていました)。Aは帰省した実家で自殺し、母親XはAの自殺はパワハラが原因であると主張し,Y銀行に使用者責任(民法715条)または安全配慮義務違反等の債務不履行(民法415条)があるとして約8189万円の損害賠償を請求しました。
裁判所の判断
まず、ミスを指摘し改善を求めるのはB・Cの業務であり,叱責が続いたのはAが頻繁にミスをしたためで何ら理由なくAを叱責していたわけではないこと,B,Cの具体的な発言内容はAの人格的非難に及ぶものではないことなどから,B,Cの叱責が業務上の指導の範囲を逸脱し,社会通念上違法であったとまでは認められないとして,両名の不法行為責任を否定し,その不法行為責任を前提としたY銀行に発生する使用者責任についてもこれを否定しました。
次に、債務不履行責任については、B・Cによる日常的な叱責は係長も十分に認識しており、Dら上司はAの体調不良や自殺願望がB・Cとの人間関係に起因することを容易に想定できたため、Aの心身に過度の負担が生じないようにAの異動も含め対応を検討すべきところ、担当業務を一時的に軽減する以外の何らの対応もしなかったのであるから、Y社には安全配慮義務違反があったと判断しました。
また、Aがパワハラの相談や外部通報等を行っていなかったとしても、AとB・CらとのトラブルがY社においても容易にわかりうる以上、Aに対する配慮が不要であったとはいえないとし、債務不履行(安全配慮義務違反)を理由に、慰謝料など総額で約6,100万円の支払いをY社に命じました。
まとめ
この判決ではB・Cらの行為がパワハラとしては認定されなかったものの、Y社が適切な措置を行わなかった点で会社の安全配慮義務違反が認められました。
Aが相談等を行わなかった点を考慮しても、相談によって不利益な取り扱いを受けるのではないかと考え実際に行動を起こせないことは想像に難くありません。
安全配慮義務とは一律に定義された特定の措置を指すのではなく、具体的な状況に応じて対応することが求められています。労働者が職場環境により体調不良になっていないか等、労働者の健康に配慮し管理することが大切です。
どのように防止するか?
前々回に述べた「職場におけるパワーハラスメント」の定義に該当しない場合であっても、会社が問題を把握し都度適切な対応を行うことで、前述した判例のように取返しのつかない事態を避けることができるかもしれません。
相談窓口を外部に設置することで、悩みを抱えた労働者が気軽に相談ができるようになったり、部下への指導や接し方に悩んでいる様子があれば具体的な研修を受けるよう提案する等、労使でパワーハラスメント問題に真剣に取り組むことこそ、パワーハラスメントの予防に繋がるのではないでしょうか。
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