コラム

裁量労働制について

近年は、長時間労働の是正や働き方改革の推進を背景に、労働関係法令の改正が相次いでいます。たとえば2023年には中小企業を含む全ての企業において「月60時間を超える時間外労働に対して割増率50%以上」が適用されるようになりました。

さらに2024年には、医師に対する時間外労働の上限規制が適用されるなど、職種や業種問わず幅広く影響が出ています。

こうした流れの中で、労働者に対し適法な働き方を確保すること・法律に沿った労働時間管理を行うことは企業に当然に求められる義務です。しかし実務の現場では「社員一人ひとりの労働時間管理に手間がかかる」「成果で評価したいのに勤務時間との整合性がとれない」といった課題がしばしば生じています。

こうした背景から、従来の「時間」を基準とした働き方ではなく、より「成果」を重視する働き方へのニーズが高まっています。その手段の一つとして注目されているのが裁量労働制です。

裁量労働制とは?

裁量労働制は、労働者が実際に働いた時間ではなく、あらかじめ定められた時間(みなし労働時間)を働いたものとみなす制度です。

労働基準法上「みなし労働時間制」に位置づけられ、次の2種類があります。

① 専門業務型裁量労働制

業務の性質上、その遂行の方法を大幅に当該業務に従事する労働者の裁量に委ねる必要があるため、業務の遂行の手段及び時間配分の決定等に関し使用者が具体的な指示をすることが困難なものとして定められた業務の中から、対象となる業務等※1を労使協定で定め、労働者を実際にその業務に就かせた場合、労使協定であらかじめ定めた時間労働したものとみなす制度です。

※1 省令および告示によって定められた全20業務(弁護士、公認会計士、証券アナリストなど)。

【導入プロセス】

労使協定を締結→個別の労働契約や就業規則の整備→協定届を所轄の労働基準監督署へ届出→明示必要事項を説明の上労働者本人の同意を得る→制度実施

【制度利用の実態】

規定の整備や労使協定の締結など導入のハードルが比較的低く、ITやクリエイティブな職種において広く利用されている一方で長時間労働になりやすい傾向があることから、厚生労働省も監督や指導を強化しています。

② 企画業務型裁量労働制

事業の運営に関する事項についての企画、立案、調査及び分析の業務であって、業務の性質上、これを適切に遂行するには、その遂行の方法を大幅に労働者の裁量に委ねる必要があるため、業務遂行の手段や時間配分の決定等に関し使用者が具体的な指示をしないこととする業務等※2について労使委員会で決議し、労働基準監督署に決議の届出を行い、労働者を実際にその業務に就かせた場合、労使委員会の決議であらかじめ定めた時間労働したものとみなす制度です。

※2 本社で経営企画・調査分析などに従事する社員が対象。

【導入プロセス】

労使委員会を設置→労使委員会で決議→個別の労働契約や就業規則の整備→所轄の労働基準監督署に決議を届出→明示必要事項を説明の上労働者本人の同意を得る→制度実施

【制度利用の実態】

対象者が限られ、労使委員会の設置や決議など手続きが煩雑であることから導入のハードルが高く、一部の大企業で利用されるにとどまっています。令和6年の厚生労働省調査※3においても利用している企業割合は「1.0%」と、専門業務型(2.2%)と比較して低いという結果が出ています。

※3 令和6年就労条件総合調査

裁量労働制を導入するメリットとデメリット

① 企業側のメリット

  • 成果主義と相性がよく、人材のモチベーション向上につながる。
  • 業務の遂行方法を労働者に委ねることで、自主性・創造性を発揮しやすい環境をつくれる。

② 労働者側のメリット

  • 自分の裁量で仕事の進め方や時間配分を決められるため、働きやすさ・自由度が増す。
  • 成果やスキルで評価されやすく、モチベーションや主体性を高めやすい。

❶ 企業側のデメリット・リスク

  • 裁量の実態がなく、上司の細かい指示通りに働いている場合は無効とされる。
  • 実労働時間との乖離が大きいと過重労働や労務リスク(訴訟・労基署是正)につながる可能性がある。
  • 成果の評価基準が曖昧だと、人事評価のトラブルになりやすい。

❷ 労働者側のデメリット・リスク

  • 仕事の進め方を自分で管理する必要があり、自己管理能力が低い人には負担が大きい。
  • 成果が見えにくい業務の場合、評価が不透明になりやすい。
  • 裁量労働制の名の下に、事実上の長時間労働が固定化されるリスクがある。

裁量労働制導入時の注意点

裁量労働制は、「対象業務の適格性」「手続きの適正さ」「運用実態」の3つが整って初めて有効に機能します。

対象業務の適格性

対象業務を、法律で定められた業務以外に拡大することはできません。不適切な業務に適用すると違法となるため、定義づけが重要です。

手続きの適正さ

労使協定の内容設定や届出、労働者本人の同意を得るなどをしっかり行うことが必要です。また、それらを書面化して明確に残すことも重要となります。

運用実態の確保

上司が日々具体的に指示していると裁量性が否定されます。実態に即した制度の適用・マネジメントが必要です。

裁量労働制関連の判例

安易に裁量労働制を適用した結果、導入のための労使協定について過半数代表者の選出手続きが適正ではなかったとして労使協定が無効となった判例(学校法人松山大学事件(松山地裁令和5年12月20日))や、実際の業務内容・業務実態が定義に合わないとして違法となった判例(レガシィほか1社事件(東京高裁平成26年2月27日))があります。

裁量労働制は働き方の柔軟性を高める制度ですが、適用には厳密さが求められます。業務内容が制度の定義に合わなければ適用は認められず、誤った運用は未払い残業代などのリスクにつながります。

今後の動向

近年、政府は裁量労働制の適正運用に向けた監督を強化しており、「形だけ導入している企業」へのチェックが厳しくなっているのが実情です。

制度を使う際は、

  • 自社の業務実態に合っているかどうかをまず精査すること。
  • 就業規則や労使協定の内容を最新の法令に適合させること。
  • 健康確保措置や労務管理の運用体制を整備すること。

などのポイントを抑えることが重要です。

私たち社会保険労務士法人clovicでは、導入可否の検討段階から協定作成・届出、運用後のフォローまで、トータルで支援することが可能です。

導入を検討される際は、ぜひご相談ください。

出典

この記事をシェアする