コラム

テレワークと労災について

労働災害とは?

労働災害とは、労働者が業務遂行中に業務に起因して受けた業務上の災害のことで、労働安全衛生法第2条第1項第1号において「労働者の就業に係る建設物、設備、原材料、ガス、蒸気、粉じん等により、又は作業行動その他業務に起因して、労働者が負傷し、疾病にかかり、又は死亡すること」と定められています。
労災には、仕事中の負傷などの「業務災害」と、通勤途中の負傷などの「通勤災害」があり、労災が発生した場合には、労働基準監督署による労災認定を受けることによって、労災保険から各種補償の支払いを受けることができます。
業務上の災害が認められるためには、①業務遂行性、②業務起因性という2つの要件を満たす必要があります。

テレワーク中の業務災害

勤務場所が本拠のオフィス以外の場所であるテレワークの場合も、オフィスで勤務する通常の労働者と同様に労働者災害補償保険法の適用を受けることとなります。

そのため業務遂行性※1および業務起因性※2の要件を満たす場合には、労災保険給付の対象となります。

※1 事業主と労働者との労働契約に基づき、事業主の指揮命令下にある状態のこと
※2 事故性の傷病・死亡負傷や疾病、死亡が業務遂行との間に相当因果関係があること

テレワーク中の業務災害と認められた事例

①就業時間中にトイレに行く際に転倒して負傷

業務遂行性:就業時間中は使用者の支配下にある状態といえます。
業務起因性:生理現象に伴う行為は通常、業務に付随する行為として扱われます。

②仕事で使用する書類を他の部屋に取りに行く途中の負傷

業務遂行性:就業時間中は使用者の支配下にある状態といえます。
業務起因性:業務に必要な書類等を取りに行く行為は業務に関係していると認められます。

③就業時間内に自宅にてパソコン作業中、同室にいた子が投げた玩具が頭に当たって負傷

業務遂行性:就業時間中は使用者の支配下にある状態といえます。
業務起因性:自宅にて、子の様子を見ながら業務をする場合は子の行為による負傷であっても在宅勤務に内在する危険であるといえます。ただし、休憩時間中に子と遊んでいて負傷をした場合や就業時間中ではあるが業務を中断し家事育児をしていて負傷をした場合は業務遂行性の要件を満たしません。

④腰痛が発生

腰痛については、厚生労働省が「業務上腰痛の認定基準」という労災認定基準を定めており腰痛を2種類に区分して認定の可否を判断します。 また労災対象となる腰痛は医師により療養の必要があると判断されたものに限られるため、療養の必要のないような軽い腰痛は業務上の疾病としては扱われません。

【業務上腰痛の認定基準】

●災害性の原因による腰痛

負傷などによる腰痛で次の①と②のどちらの要件も満たすもの

①腰の負傷または、その負傷の原因となった急激な力の作用が、仕事中の突発的な出来事によって生じたと明らかに認められること

②腰に作用した力が腰痛を発症させ、または腰痛の既往症・基礎疾患を著しく悪化させたと医学的に認められること

例:重量物の運搬作業中に転倒等、突然の出来事により急激な強い力が腰にかかったことにより生じた腰痛・持ち上げる重量物が予想と違うかった場合や不適当な姿勢で重量物を持ち上げたことにより突発的で急激な強い力が腰に異常に作用したことにより生じた腰痛
(急性腰痛症、所謂ぎっくり腰は日常的な動作の中で生じるため業務中に発症しても労災対象とは認められません。ただし発症時の動作や姿勢の異常性等により腰への強い力が腰に作用したことが原因の場合は業務上と認められることがあります)

●災害性の原因によらない腰痛

突発的な出来事が原因ではなく、重量物を取り扱う仕事など腰に過度の負担のかかる仕事に従事する労働者に発症した腰痛で、作業の状態や作業期間などからみて、仕事が原因で発症したと認められるもの

例:日々の業務による腰部への負荷が蓄積し発症した腰痛。20kg以上の重量物を繰り返し中腰の姿勢で取り扱う業務・毎日数時間程度腰にとって極めて不自然な姿勢を保持して行う業務・長時間立ち上がることができず同一の姿勢を持続して行う業務・腰に著しく大きな振動を受ける作業を継続して行う業務等

なお腰痛は加齢による骨の変化によって発症することが多いため骨の変化を原因とした腰痛が労災の対象と認められるにはその変化が「通常の加齢による骨の変化の程度を明らかに超える場合」に限られます。
(参考元:厚生労働省「腰痛の労災認定」
在宅勤務では、パソコン作業や事務的な作業が中心となるため、上記の「災害性の原因による腰痛」が発生する可能性は極めて低く、また「災害性の原因によらない腰痛」として挙げられている例もあまり現実的ではないため、在宅勤務にて発生した腰痛が労災と認定される可能性は低いといえます。

テレワーク勤務者に対する望ましい対応

以上のことを踏まえ、テレワーク勤務を行うにあたって会社が定めることが望ましい事項と、その事項をテレワーク勤務規程に定める場合の例文は下記となります。

テレワーク勤務規程において明文化し労働者に周知することがテレワーク勤務者の労災事故を未然に防ぐことに繋がるかもしれません。

【事項①】業務遂行性の判断のためにも情報通信機器の使用状況などの客観的な記録や、テレワーク勤務労働者から申告された時間の記録を適切に保存すること

【例文①】
第●条 テレワーク勤務者は、勤務した日の始業・終業時刻、労働時間、休憩時間を次のいずれかの方法により、所属部署の長に報告するものとする。

 (1)電話
 (2)電子メール
 (3)勤怠管理ツール
 (4)その他会社が定めたテレワークツールや書式
  2 テレワーク勤務を行う日にやむを得ず欠勤又は始業・終業時刻を変更する場合は、事前に所属部署の長へ連絡しなければならない。ただし、やむを得ない事情で事前に申出ることができなかった場合は、事後速やかに届出なければならない。

【事項②】テレワーク勤務労働者が負傷した場合の災害発生状況等について使用者や医療機関等が正確に把握できるよう状況等を可能な限り記録しておくことを労働者に対して周知すること

【例文②】
第●条 テレワーク勤務者は、自宅で業務に起因する負傷又は疾病が発生したときは、第●条の定めに基づき直ちに所属部署の長及び会社に報告し、必要な指示に従わなければならない。

【事項③】テレワーク勤務規程等で在宅勤務者の就業場所は原則自宅とし、会社の承認を得た場合のみ自宅以外の場所での就業を可能とすること、及びその就業場所の名称や所在地、自宅以外の場所にいる場合の連絡方法等を会社に届出る旨を定めておくこと。

【例文③】
第●条 在宅勤務者の就業場所は、原則として自宅とする。
  2 業務の都合上その他やむを得ない事由がある場合は、会社の承認を得て自宅以外の場所で就業することができる。
  3 前項の場合、事前に就業場所の名称、所在地及び連絡方法について所属部署の長を通じて会社に届出なくてはならない。

(テレワーク勤務時の連絡体制)
第●条 テレワーク勤務時における連絡体制は、次のとおりとする。
 (1)テレワーク勤務時に事故・トラブルが発生した時には代表取締役に連絡すること。
 (2)会社から従業員への連絡事項が生じた場合、テレワーク勤務者へは所属部署の長が連絡をすること。なお、テレワーク勤務者は、連絡事項が生じた場合に確実に連絡が取れる方法をあらかじめ所属部署の長及び会社に報告しておくこと。
 (3)前各号以外に連絡の必要性が生じた場合は、前各号に準じて、各自が判断して対応すること。

【事項④】自宅で勤務する従業員に対して、作業を行う場所の環境整備について下記の例を参考に提案や注意喚起を行うこと 等

出典:https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_01603.html

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