社会保険調査について
社会保険調査とは、健康保険及び厚生年金保険に加入している事業所(以下「適用事業所」)が、管轄の年金事務所から“資格及び報酬等が適正であるか”について調査されることです。
このコラムでは調査の頻度・調査日時・対象者・用意する書類・調査内容などについてお伝えしていきます。


頻度
新しく適用事業所となった場合(新規適用事業所)であればおおよそ6か月~1年後に、それ以外の適用事業所であればおおよそ3年~5年に一度、定期的に行われることが多いです。
調査日時
管轄の年金事務所から通知によって日時が指定されます。自身が年金事務所へ訪問する場合と、年金事務所の担当者が自社に来社する場合がありますが、指定された日時に訪問できない、または年金事務所の来社に対応できない場合は、事前に連絡して変更してもらう必要があります。

対象者
社会保険(健康保険・厚生年金保険のこと。以下同じ。)の適用の有無や雇用形態に関わらず、調査が発令された日に在籍している役員及び全従業員(パートアルバイト等の短時間労働者を含む。)が調査対象となります。
用意する書類
管轄の年金事務所によって提出する書類が違う場合がありますが、一般的には下記の書類を準備するよう指示されることが多いです。
- 報酬・雇用に関する調査票(通知書に同封されています。)
- 就業規則(労働協約)・給与規定
- 源泉所得税領収証書(給与所得・退職所得等の所得税徴収高計算書)または個人別所得税源泉徴収簿(給与所得に対する源泉徴収簿)
- 賃金台帳(給与明細でも可)
- 出勤簿またはタイムカード(賃金台帳等に出勤日数及び労働時間が確認できる場合は省略可)
- 労働条件通知書又は雇用契約書
- 事業所名、所在地のゴム印

調査内容
調査では、大きく分けて以下の3点を確認されます。
法定通りの社会保険加入手続きがされているか
本来加入要件を満たしているにもかかわらず、社会保険に加入していない人はいないか、を確認されます。
特に短時間労働者(パート・アルバイト等)の勤務日数と勤務時間が、加入要件を満たしていないかが詳しく見られるポイントです。
短時間労働者は、1日または1週の所定労働時間および1月の所定労働日数が常時雇用者のおおむね4分の3以上(この基準に該当しない場合であっても就労形態や勤務内容等から常用的使用関係にあると認められる場合は被保険者となります。)である場合に加入要件を満たし、被保険者となります。
また、社会保険に加入している人数が50人を超える適用事業所は『特定事業所』となり、上記に該当しない場合でも、下記の要件を満たす場合は加入対象となります。
- (1)週の所定労働時間が20時間以上であること(雇用契約書等で通常の週に勤務すべき時間を定めていること又は実態でも週20時間以上が2か月以上継続しており、なお引き続くと見込まれること)
- (2)所定内賃金が月額8.8万円以上であること(割増賃金、臨時に支払われる賃金、最低賃金法で算入しないことを定める賃金は除く。)
- (3)昼間の学生でないこと(卒業が見込まれている者で、卒業前に就職し、卒業後も引き続き同じ事業所に勤務する予定の者、休学中や大学の夜間および高校の夜間等の定時制に通っている者は除く。)
加入要件を満たしているにもかかわらず、加入手続きがなされていない場合は、指摘をうけることとなります。

標準報酬月額の改定(随時改定)が法定通りに手続きされているか
随時改定とは下記の要件をすべて満たす場合に標準報酬月額の改定を行うことです。
- (1)固定的賃金に変動があった場合(昇給・降給・給与体系の変更・日給や時給の基礎単価の変更・歩合の計算単価や歩合率の変更・固定的な手当の追加・削除などが該当します。)
- (2)変動があった月から3か月間に支給された総支給額(社会保険料や所得税等が控除される前の金額)の平均額を標準報酬月額に当てはめて、これまでの標準報酬月額との間に2等級以上(改定された等級が上限と下限の等級に該当した場合は1等級以上)の差が生じた場合
- (3)変動があった月から3か月間の各月の支払基礎日数(月給制や週給制の場合は暦日数、日給制や時給制の場合は出勤日数です。)が、17日(特定適用事業所に該当する短時間労働者は11日)以上である場合
随時改定に該当するにもかかわらず、届出がなされていない場合は、指摘をうけることとなります。

賃金の中に賞与に該当するものがないか
賞与とは賃金、給料、俸給、手当、賞与その他いかなる名称であるかを問わず、労働者が労働の対償として受けるもののうち、年3回以下の支給のものです。毎月変動する割増賃金や個人の売上に対してのインセンティブ等は賞与に該当しませんが、年末や正月などに毎年支給される手当は該当します。
賞与に該当するものがあるにもかかわらず、賞与支払届を提出していない場合は、指摘をうけることとなります。
調査結果の対応
調査によって、上記でお伝えした内容について指摘された場合は、2年前まで遡って、加入手続き、随時改定の届出、賞与支払届の提出等、手続きを行う必要があります。
また、該当となった従業員からは遡って手続きした分の保険料を徴収することになります。

調査で指摘を受けないようにする為の対応
加入する必要のある方が未加入とならないようにする為には、以下の対応が必要です
- 正しい内容の雇用契約書を締結する
- 雇用契約書に定めた契約内容が加入要件を満たしている場合は必ず加入手続きをする
また、雇用契約書の内容では加入要件を満たさないような方であっても、実態として勤務日数や勤務時間を毎月の給与計算で把握し、加入要件となる勤務が常態化していないかを確認しましょう。
随時改定手続きの漏れがないようにする為には、毎月の給与計算で固定賃金の変動や手当の追加等がある方についてモニタリングする体制をつくることが必要です。
例えば、管理表を作成して該当者が出た場合には都度書き込むというのが一つの方法です。そうすることで該当者に対して3か月間で支払われた賃金が確定した際に、随時改定に該当するか否かを漏れなく確認し、該当した場合には速やかに手続きが出来るようになります。
賞与支払届は、年3回以下に支給されるもので賞与に該当するものを支給した場合に、提出が必要です。もし賞与の判断や区別がつかない場合は年金事務所や顧問社会保険労務士に説明して確認することをおすすめします。


社会保険の調査で遡及の加入・改定等の指摘を受けないようにするには、日々の従業員の入社処理、毎月の給与計算、勤怠管理が重要となります。正しい知識でそれらの処理を行っていれば調査が入っても基本的には問題なく対応できるはずです。このコラムで、少しでも今後の調査対応にお役立いただければ幸いです。