コラム

高年齢雇用継続給付について

「高年齢雇用継続給付」という制度について解説します。
定年退職後も引き続き働く意欲のある高年齢者の方を支援する雇用保険の制度で、60歳以降も引き続き働く高年齢者に対して支給される給付金のことを指します。定年後も就業を継続することで、労働者の生活の安定を図るとともに、企業側の人材確保を促進する制度です。

最新のお知らせ【2025年4月改正】

令和7年4月1日から高年齢雇用継続給付の支給率が変わります

令和7年4月1日以降に60歳に達した日(その時点で雇用保険の被保険者であった期間が5年以上ない方は、その期間が5年以上となった日)を迎えた方については、60歳以上65歳未満の各月の賃金が60歳時点の賃金の64%以下に低下した場合の支給額は、各月の賃金の10%相当額となり、60歳時点の賃金が64%超75%未満に低下した場合の支給額は、その低下率に応じて、各月の賃金の10%相当額未満の額となります。

※令和7年3月31日以前に60歳に達した方等は現行の支給率から変更はありません。

高年齢継続給付とは

高年齢継続給付は、60歳以上65歳未満の被保険者が、賃金が低下した場合に受け取れる給付金です。この給付制度には「高年齢雇用継続基本給付金」と「高年齢再就職給付金」の以下の2種類があります。

  • 高年齢雇用継続基本給付金:60歳以降も引き続き雇用される方が対象です。
  • 高年齢再就職給付金:雇用保険の基本手当を受給し、再就職した方が対象です。

高年齢雇用継続基本給付金

【対象者】

以下の要件を満たす60歳以上65歳未満の雇用保険の被保険者が対象です。

  • 雇用保険の被保険者であった期間が通算5年以上ある
  • 60歳以降の賃金が60歳時点の賃金の75%未満に低下していること

※60歳到達時点で要件を満たしている場合だけでなく、60歳以上65歳未満で要件を満たしている場合にも対象となります。

【支給額】

60歳時点の賃金と比較して、60歳以降の賃金が低下した場合に、その低下率に応じた給付金が支給されます。

支給対象月に支払われた賃金額

みなし賃金日額×30
(みなし賃金月額)の

100分の64未満 支給対象月に支払われた賃金額×100分の10

100分の64以上
100分の75未満

支給対象月に支払われた賃金額×一定の支給率
100分の75以上 不支給

用語解説

みなし賃金日額とは、60歳に達した日を離職の日とみなして算定した賃金日額に相当する額のことです。

【ポイント】

  • 原則として、65歳までの間で支給要件を満たす限り継続して支給されます。
  • 支給対象月に支払われた賃金額が支給限度額以上である場合は、100分の75未満であっても支給されません。
  • 賃金の額と高年齢雇用継続基本給付の額の合計が支給限度額を超える場合は、支給限度額から賃金の額を差し引いた額が支給されます。
  • 月の半ばで退職した場合、該当月は給付金が支給されません。

高年齢再就職給付金

【対象者】

離職をして、基本手当の支給を受けたものが、60歳以上で再就職をして被保険者となった場合において、離職時と比べて賃金が低下した場合に支給されます。基本手当の支給残日数に応じで受給できる期間が決まります。

  • 60歳に達した日以降安定した職業に就くことにより被保険者となったこと
  • 受給資格にかかる離職の日における算定基礎期間が通算して5年以上であること
  • 就職日の前日における基本手当の支給残日数が100日以上であること
  • 再就職後の支給対象月に支払われた賃金額が賃金日額に30を乗じて得た額(離職前の賃金月額)の100分の75未満となったこと

【支給期間】

支給残日数 支給期間

200日以上

就職日の属する月から 就職日の翌日から起算して2年を経過する日の属する月まで

100日以上200日未満

就職日の翌日から起算して1年を経過する日の属する月まで

【支給額】

支給対象月に支払われた賃金額

賃金日額×30

※基本手当の日額の算定の基礎となった
賃金日額になります

100分の64未満 支給対象月に支払われた賃金額
×100分の10

100分の64以上
100分の75未満

支給対象月に支払われた賃金額
×一定の支給率
100分の75以上 不支給

用語解説

基本手当とは、雇用保険の一般被保険者が離職し、失業中の生活を心配しないで、再就職が出来るように支給される所得保障給付のことです。日常会話で失業手当や失業保険と呼ばれることもあります。

【ポイント】

  • 給付金の支給対象月は初日から末日まで被保険者でなければいけません。(高年齢雇用継続基本給付金と同様)
  • 高年齢再就職給付金と再就職手当の併給は認められていません。どちらの給付を受けるかは、被保険者自身が決定します。

高年齢継続給付の申請

高年齢雇用継続給付は原則として企業が申請書や添付書類をハローワークに提出します。ただし、本人が希望する場合は、本人が申請手続きを行うことも可能です。手続きの手順や必要な書類は、以下の資料にて確認してください。

高年齢継続給付の注意点

  • 特別支給の老齢厚生年金(在職老齢年金)が減額されることがあります。
  • 育児休業給付や介護休業給付を受けると高年齢雇用継続給付を受けられません。
  • 高年齢再就職給付金と再就職手当の両方をもらうことはできません。いずれか一方を被保険者が選択することとなります。一度選択し、支給決定を受けると、その後の取消しや変更等はできません。
  • 賞与(ボーナス)が支給される月は合計賃金が上がるため、要件の合う月とならず、高年齢雇用継続給付金を受給できない場合もあります。
  • 個人事業主や公務員など雇用保険に加入していない人は対象外になります。

経営者、人事部に求められる対応

高年齢雇用継続給付は、60歳以降の賃金額が低下している従業員の生活に影響を与えるものでもあるため、制度の内容を理解しておく必要があります。
60歳以降の定年再雇用にあたり、高年齢雇用継続給付の補填を基本にした賃金制度の設計をしてきた会社も多いでしょう。令和7年4月の縮小に伴い、対象労働者の賃金は下がってしまいます。
更に、高年齢雇用継続給付は、将来的には廃止される検討もされています。同一労働同一賃金ガイドラインでは、「定年後に継続雇用された有期雇用労働者についても、パートタイム・有期雇用労働法が適用される。」としています。従って、定年後再雇用においても、正社員と比較して不合理な待遇差がないかを確認し、働く意欲のある高年齢者が活躍できるよう、定年制度、人事制度、賃金制度を見直す必要があります。

この記事をシェアする